コラム
COLUMN
犬や猫の体にイボ・できものがある?原因と診断方法を獣医師が解説
2025.12.17犬・猫
愛犬や愛猫の体にふと触れたとき、思いがけず“イボ”のようなできものに気づいて不安になった経験はありませんか?「もしかして、がんかもしれない…」そんな心配から、動物病院に相談される飼い主様は少なくありません。
当院でも、犬や猫のイボ・できものに関する相談が多く寄せられます。こうしたできものは、季節を問わず比較的よく見られるもので、決して珍しいものではありません。
今回は、犬や猫のイボ・できものについて、その種類や診断方法、治療の考え方を詳しく解説します。

■目次
1.犬や猫のイボ・できものの種類と特徴
2.細胞診とは?体に負担をかけずにできる検査
3.細胞診では対応が難しいケースも
4.治療の選択肢はひとつではない
5.受診のタイミングと診察前にできること
6.まとめ
犬や猫のイボ・できものの種類と特徴
犬や猫の皮膚にできる“イボ”や“できもの”には、さまざまなタイプがあります。
<良性と悪性のちがいとは?>
イボやしこりには「経過観察でよいもの」と「早めの治療が必要なもの」があります。それを見分けるうえで大切なのが「良性」か「悪性」かという視点です。
・良性腫瘤
脂肪のかたまりや皮膚の老化によるもので、ほとんどの場合でゆっくりと大きくなり、転移する心配はありません。
・悪性腫瘤
いわゆる「がん」にあたるもので、急激に大きくなったり、周囲の組織へ広がったりするリスクがあります。
ただし、見た目だけで判断するのは非常に難しく、専門的な検査が必要になります。
<イボとまぎらわしい皮膚のトラブル>
ニキビのような皮脂のつまりや、アレルギーによる皮膚炎なども、イボやできもののように見えることがあります。一見よく似ていますが、原因や治療法はまったく異なるため、慎重な診断が欠かせません。
アレルギー性皮膚炎の治療や予防などについてより詳しく知りたい方はこちら
<年齢や犬種によるできやすさの違い>
高齢になると皮膚の代謝や免疫の変化により、イボやしこりができやすくなります。
また、ゴールデン・レトリバーやボクサーなど、腫瘍ができやすいとされる犬種もありますので、定期的なチェックが大切です。
細胞診とは?体に負担をかけずにできる検査
当院では、多くのケースで、まず「細胞診(さいぼうしん)」という検査をおすすめします。これは、細い針でできものの細胞を少量だけ採取し、顕微鏡で確認する検査です。
<麻酔なしでできるやさしい検査>
細胞診は、麻酔やメスを使わずに行えるため、身体への負担が少なく、特に高齢の犬や猫にも安心して受けていただけます。
「がんだったらどうしよう…」と心配な気持ちのなかでも、まず性質を把握することで、気持ちを整理しながら次のステップを考えることができます。
<情報収集の第一歩として活用を>
とはいえ、細胞診はあくまで簡易的な検査です。できものの種類や採取できた細胞の状態によっては、はっきりとした診断がつかないこともあります。
その場合は、必要に応じて次のような追加検査を行うことがあります。
・病理組織検査:できものを摘出し、より詳しく組織を調べる検査です。
・血液検査・画像検査:転移の有無や体全体の状態を把握するために行います。
無理にすべてを一度に決める必要はありません。まずは体への負担が少ない検査からスタートし、必要に応じて段階的に判断していく―それが、当院の基本的な考え方です。
細胞診では対応が難しいケースも
すべてのイボやできものが、すぐに細胞診で調べられるわけではありません。中には次のように、慎重な判断が必要なケースもあります。
・とても小さいできもの
針よりも小さいほどのサイズだと、細胞を採取するのが難しく、無理に検査することで出血などのリスクが高まることもあります。
・目のまわりや口元など、繊細な場所にある場合
わずかな動きが大きな事故につながるおそれがあるため、安全を最優先に、無理に行わないこともあります。
・皮膚の奥深くにあるしこり
針が届きにくい位置にあるため、表面からの細胞採取では情報が得られないこともあります。
このような場合でも、私たちは「できないから終わり」とは考えていません。時間をかけて状態を観察したり、必要に応じて麻酔下での検査を検討したりと、別の方法をご提案することも可能です。飼い主様と相談しながら、その子にとって無理のない選択を丁寧に探していきます。
治療の選択肢はひとつではない
細胞診の結果や経過観察の情報をもとに、治療が必要かどうかを判断します。
<主な治療方針>
・摘出手術:悪性の疑いがある場合や、出血・かゆみなど物理的なトラブルがある場合
・経過観察:良性が疑われ、愛犬・愛猫に負担がない範囲で様子を見ていくケース
もちろん、最終的な判断は飼い主様のご希望と、動物の年齢や体調などを考慮しながら、慎重に行います。当院では「この子にとって何が一番良いか」を一緒に考えていけるように、丁寧な説明とご相談の時間を大切にしています。
受診のタイミングと診察前にできること
愛犬や愛猫の体にイボやしこりを見つけたときに「すぐに病院へ行くべきなのか」「少し様子を見てもよいのか」と迷う方も多いかと思います。基本的には、以下のようなサインがある場合は早めの受診をおすすめします。
<早めの受診をおすすめするサイン>
・イボの大きさが短期間で大きくなっている
・色が変化してきた(黒くなった、赤くなった)
・触ると痛がる、出血している
・しきりに気にして舐めたりかいたりしている
<診察時に役立つ準備>
・日々の変化を記録しておく(写真やメモ)
・触ったときの感触や大きさの印象などを整理しておく
こうした情報が、診断の精度を高める大切な手がかりになります。
まとめ
犬や猫の体にできものを見つけたときに「これって大丈夫?」と不安になるのはごく自然なことです。当院では、そうした不安に寄り添いながら「まずは細胞診で情報を集める」という、体への負担が少ない方法から始めることを大切にしています。
また、状態や状況に応じて必要な検査や対応を組み合わせながら、その子にとって最適な選択肢を考えていけるように丁寧な説明と対話を心がけています。気になるできものがある場合は、どうぞお気軽にご相談ください。
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この記事を書いた人
- 永原動物病院 院長
- 永原 未悠(ながはら みゆ)
飼い主様へのインフォームドコンセントや、信頼関係を大切にしています。大事な予防も含め、疾患(病気)への治療や方針について話し合い、飼い主様と一緒に進めてまいりたいと思います。