コラム
COLUMN
【獣医師が解説】犬や猫のかゆみの原因と受診のタイミング
2025.11.11犬・猫
最近、愛犬や愛猫が「しきりに体を掻いている気がする」「同じ場所ばかり舐めていて、毛が薄くなっている」そんなふうに感じたことはありませんか?
かゆみは、犬や猫にとって深刻なストレスや体調不良のサインであることも多く、放っておくと自分の皮膚を掻き壊して傷つけてしまったり、眠れなくなるほどかゆみが強くなったりするケースもあります。その結果、生活の質(QOL)が低下することもあります。
特に岡山では梅雨や夏場にかけて、湿度と気温が上昇し、皮膚トラブルが起こりやすくなります。そのため、少しでも異変が見られたら、早めに対応することが大切です。
今回は犬や猫のかゆみについて、考えられる原因や病院を受診すべきタイミング、ご自宅でのケア方法などを解説します。

■目次
1.犬や猫がかゆがる時の行動サイン
2.動物病院を受診すべきタイミング
3.かゆみの主な原因とメカニズム
4.かゆみの診断と治療方法
5.ご自宅でできるかゆみケア
6.まとめ
犬や猫がかゆがる時の行動サイン
犬や猫がかゆみを感じている時は、以下のような行動が見られます。
・しきりに体や足を舐める
・歯や爪を使って噛んだり引っ掻いたりする
・壁や床、家具などに体をこすりつける
・落ち着きがなく、眠れない
犬の場合は、前足や体をしきりに舐めたり、後ろ足で耳や顔をかいたりすることが多いです。一方、猫ではグルーミング(毛づくろい)が極端に増えたり、特定の部位を集中的に舐め続けたりする様子が見られます。これらの行動により、被毛が切れて薄くなったり、脱毛が起きることもあります。
かゆみが軽い場合は、一時的な行動で終わることもありますが、これらの症状が続くようであれば、強いかゆみを感じている可能性があります。そうした状態が続くと、犬や猫の睡眠や普段の生活にも支障をきたし、QOL(生活の質)が大きく低下してしまいます。かゆみは見過ごされがちですが、放っておかずに早めの対応を心がけることが大切です。
動物病院を受診すべきタイミング
以下のような症状が見られる場合には、早めに動物病院を受診しましょう。
・かゆみが数日以上続いている
・皮膚が赤い、腫れている
・脱毛やフケ、湿疹がある
・かき壊しや出血、膿がある
・体臭が普段よりも強い
・食欲や元気がない
これらは初期の段階で受診すれば、治療が短期間で済み、症状の悪化や二次感染のリスクも抑えることができます。しかし、かゆみを放置すると皮膚のバリア機能が壊れ、そこからさらに細菌や真菌に感染して炎症が広がるといった悪循環に陥ることがあります。さらに、犬や猫自身が自傷行為をしてしまう可能性もあるため、注意が必要です。
また、診察時には「いつからかゆがっているのか」「どの部位を掻いているのか」「どんな場面でかゆみが強くなるのか」といった情報をメモしておくと、より正確な診断につながります。
かゆみの主な原因とメカニズム
犬や猫がかゆみを引き起こす原因には、以下が考えられます。
<外部寄生虫(ノミ・ダニ)>
特に春から夏にかけて多く見られます。ノミやダニの刺咬による直接的なかゆみに加えて、アレルギー反応によって強い炎症を起こす「ノミアレルギー性皮膚炎」を発症することもあります。
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<アレルギー(食物、環境、接触)>
花粉やハウスダスト、カビ、食材、シャンプー、洗剤などが原因となります。慢性的にかゆみが続く場合は「食物アレルギー」や「アトピー性皮膚炎」、「接触性皮膚炎」の可能性があります。
<皮膚感染症(細菌・真菌)>
高温多湿の環境下では、細菌や真菌(カビ)が繁殖しやすく、「細菌感染症」や「真菌感染症」を起こすことがあります。感染すると赤みや脱毛、においの変化などが見られます。
<乾燥肌>
空調の効いた室内では乾燥によるかゆみが目立ちます。特に皮膚の弱い高齢の犬や猫、短毛種は影響を受けやすいです。
<ホルモンバランスの乱れ>
甲状腺や副腎の異常など、ホルモンの不調が皮膚や被毛に影響を与えることがあります。
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岡山のように夏場の湿度が高くなる地域では、特に皮膚感染症やノミ・ダニによるトラブルが多発しやすい傾向があります。また、これらの原因が単独で起こるだけでなく、複数の要因が重なって症状を悪化させるケースも少なくありません。
また、犬種によっても発症リスクが異なります。例えばアトピー性皮膚炎は柴犬やフレンチブルドッグ、トイプードルなどに多く見られます。
かゆみの診断と治療方法
かゆみの原因を的確に見極めるためには、まず問診と視診を行います。その上で必要に応じて、以下のような検査を実施します。
◆皮膚スクレイピング検査
皮膚表面を軽くこすってヒゼンダニや毛包虫などの寄生虫を確認します。
◆テープ検査
細菌や真菌の感染の有無を確認します。
◆皮膚生検
慢性的な皮膚炎の診断や腫瘍の確認に有効です。
◆血液検査
内分泌疾患の有無や全身状態を把握します。
◆アレルギー検査
採取した血液を動物アレルギー検査株式会社に送付し、IgE(アレルギー反応に関わる抗体)などを調べます。これにより、どの物質に反応しやすいかを確認し、アレルギーの原因を特定する手がかりとなります。
治療は原因に応じて、以下を組み合わせて行います。
・外部寄生虫駆除薬
・抗炎症薬(ステロイドなど)
・抗生物質、抗真菌薬
・免疫抑制剤
・アレルゲン除去食
・専用シャンプーや保湿剤を使ったスキンケア
治療期間は疾患によって異なりますが、細菌感染や寄生虫が原因の場合は3〜4週間程度、アレルギーなど体質的な原因がある場合は長期的な管理が必要になることがあります。
当院では、犬や猫に負担の少ない治療を心がけています。個々の症状に合わせた治療計画を立て、飼い主様と相談しながら、無理のない方法で改善を目指しています。
ご自宅でできるかゆみケア
治療とあわせて、ご自宅では以下のようなケアを行うことも大切です。
<低刺激性のシャンプーや保湿剤を活用>
獣医師から推奨された製品を使用し、皮膚の清潔と保湿を心がけましょう。
※ただし、シャンプーのしすぎは皮脂を奪い、かえって悪化することがあるため、適切な頻度を守ってください。
<環境を清潔に保つ>
寝具は定期的に洗濯し、室内もこまめに掃除して、ハウスダストやノミ・ダニの発生を防ぎましょう。乾燥が気になる場合は、加湿器の使用も効果的です。
<食事の見直しやサプリメントの使用>
皮膚の健康をサポートする食事内容に変更したり、サプリメントを導入したりするのも選択肢の一つです。これらを与える際は、事前に獣医師に相談しましょう。
また、自己判断で人用のかゆみ止めや市販薬を使用することは、犬や猫にとって危険なため、絶対に避けましょう。
まとめ
犬や猫のかゆみの原因はさまざまで、皮膚だけでなく全身の健康状態が関係していることもあります。そのため、正確な診断と適切な治療が大切です。
当院ではそれぞれの状態にしっかり向き合い、最も効果的で負担の少ない治療法をご提案しております。
「少しかゆがっているだけ」と思わず、気になる様子が見られたら、早めにご相談ください。犬や猫が健やかに、飼い主様とともに安心して過ごせるよう、私たちは全力でサポートいたします。
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この記事を書いた人
- 永原動物病院 院長
- 永原 未悠(ながはら みゆ)
飼い主様へのインフォームドコンセントや、信頼関係を大切にしています。大事な予防も含め、疾患(病気)への治療や方針について話し合い、飼い主様と一緒に進めてまいりたいと思います。